有名バレエダンサーの自伝的映画たちとそれらに思うこと。
- 2020.01.20
- バレエ

バレエ映画を調べると、想像していたより様々な作品があって驚かされました。
それらはバレエを題材にして創作された映画から、実際のバレエ団についてのドキュメンタリー映画までと幅広く存在しています。
その中でも自分は最近、有名バレエダンサー個人についての自伝的な映画について多く耳にするように感じます。
皆さんもどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか、例えば「セルゲイ・ポルーニン」についての映画が近年の作品として代表的です。
評判も中々に良かったようです。多くの方がバレエダンサーについて興味を持っていらっしゃるということでしょう。
以下にいくつかのバレエダンサーの自伝的映画作品を取り上げ紹介し、
それらについて意見を添えようという、そういう記事です。
Contents
自伝的映画たち
白夜 - ミハイル・バリシニコフ
この作品の主役ニコライを演じているのは、かの有名な伝説的バレエダンサー「ミハイル・バリシニコフ」です。
それだけで興味の湧く方もいらっしゃることと思います。
実を言うとこちらの作品は事実を基に作られたものではないのですが、
バリシニコフ自身ソ連に生まれ、政治のプロパガンダに利用されるバレエダンサーという立場に苦しみ、
より自由な芸術のためにアメリカへ亡命した人物であるので、バリシニコフ本人を表すための自伝的映画と言って差し支えないでしょう。
当時の閉鎖的な空気に包まれていたソ連とバレエダンサーとの政治的な関係、それを乗り越え素晴らしいバレエを世界に披露したミハイル・バリシニコフについて知ることが出来ます。
・個人的に好きなバリシニコフの踊りの動画☟
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ダンサー、セルゲイポルーニン 世界一優雅な野獣 ー セルゲイ・ポルーニン
セルゲイ・ポルーニンがバレエ団を退団したのには自分も驚きました。
しなやかな踊りがとても美しく、今でもなおバレエ界を席巻するバレエダンサーです。
こちらはなかなか多くの方に観られており、評価も高いです。母も飛行機で視聴し「面白かった」と感想していました。
ウクライナに生まれたセルゲイ・ポルーニンは厳しい母の指導の下バレエを修練するところから始まり、
わずか19歳にしてバレエ界の頂点ともいえる英国ロイヤルバレエ団のプリンシパルになりました。
しかし両親の離婚や彼自身の苦悩が重なり、次第にセルゲイは非行に走るようになります。
――バレエにおいてはよろしくないとされる入れ墨を入れたり、夜遊びを繰り返したり、ドラッグを乱用したり……
そんな破天荒な彼の内面が語られる作品です。
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Yuli ー カルロス・アコスタ
こちらも最近公開された映画です。ユーリとは、カルロスの愛称です。
内容の基になっているカルロス・アコスタ本人の自伝はベストセラーになっているそう。
映画内では、アコスタのこれまでと共に、彼の祖国であるキューバの諸問題や、祖国への帰属意識についても触れられています。
また彼は西洋文化であるバレエにおいて黒人として偉大な功績を残した人物ですので、黒人ダンサーとしての今までの苦節を知ることもできるでしょう。
これから先も、バーミンガム・バレエ団の芸術監督に2020年から就任したり、ローザンヌ国際コンクールで審査員を務めたりなど様々活躍するとのことです。リアルタイムで動向に目を離せない偉大なバレエダンサーです。
・アコスタの『ラ・バヤデール』。コンクールでこのバリエーションを踊ることになった時、彼の踊りをよく参考にしました☟
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Maiko ふたたびの白鳥 ー 西野麻衣子
バレエダンサーにとって出産とはとても大変な決断です。
なぜなら、身籠ってからは当然安静にしなければならず、踊り続けることが出来なくなります。
加えて出産にあたって女性の体は変化するものですから、育休後には以前とは異なる感覚とともに踊らなくてはなりません。
ふくよかに変わった体型を元の通りに戻すこともしなければならないでしょう。
ですから、この映画はバレエダンサーとして、そして子供を産む権利のある一人の女性としての西野さんの姿を映した、まさに現実の”バレリーナ”を表したものと言えるでしょう。
・予告編です。☟
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ホワイト・クロウ 伝説のダンサー ー ルドルフ・ヌレエフ
バレエを興味のある人なら誰でも聞いたことがあるでしょう、ロシアの偉人的バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフ。
17歳で今でも名門と名高いワガノワ・キーロフバレエ学院に編入し、その後は才能を注目され、キーロフ・バレエ(現在のマリンスキー・バレエ)に入団しました。ニジンスキーの再来とまで称されます。
この映画では彼の海外公演途中での亡命(ソ連から亡命した初のダンサーだった)までが描かれていますが、その後彼はより世界的に活躍し始めます。
英国ロイヤル・バレエ団でゲストとして長年踊り続け、ウィーン国立歌劇場で新たな『白鳥の湖』の振付なども行った。
現役後はパリ・オペラ座の芸術監督として就任し、シルヴィ・ギエムやマニュエル・ルグリなどのスターを見出しました。
オペラ座ではクラシック作品の他にウィリアム・ウォーサイスのコンテンポラリー作品などを積極的に取り入れ、現在のオペラ座の基盤を整えたので、フランスのバレエ界においても偉大な人物と言えます。
彼の舞台上での圧倒的な存在感の影響により、それまでの女性主流のバレエ界では男性も注目されるようになったとも捉えられ、まさに20世紀のバレエに革命をもたらした人物であったのです。
・パートナーとして世界中を巡った森下洋子さんとヌレエフの『眠れる森の美女』のパドドゥ☟
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総括・バレエダンサーの受け入れられ方
以上に様々なバレエダンサーの自伝的映画を紹介しました。
これらの作品が度々注目されるのを聞いて自分が思うのは、
我々は舞台の上のバレエダンサーに対してどのように接するべきなのか?
どのような存在として受け入れるべきなのか?ということです。
鑑賞してまず抱く感懐として挙げられるのは、やはり対象のダンサーに対する畏敬の念と憧れ、愛着のような好意でしょうか。
自分自身、幼いころにバリシニコフの出演する『ホワイトナイツ』を観て、以前から素晴らしいダンサーだと感じていたバリシニコフを一層好きになりました。
しかしながらそれから成長する過程で段々と気づいたことは、
そうしてバリシニコフに興奮して手をたたくことが、バレエを鑑賞するという本質から離れているということでした。
更に言えば、アイドル化したバリシニコフの踊りから貰う熱というのは、バレエを鑑賞することで得る感動とは違っているのでした。
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分かりやすい例を取り上げます。
こんなことがありませんか?
「超絶技巧の腕前を持っているから、ある人物に憧憬を抱いていたのに、その人物の性格の酷いのを知って失望した」というようなこと。
自然な感情だと思います。
そうしてまたほとんどの人が、次にはこうして覚えた失望感に対して、「技術と人物像は切り離して評価しればならない」と自らを律することをするとも思います。
人格の問題が当人の技術を損なわせるわけではないので、この考え方は順当であり、むしろ対象の人物を知らない所を含めて全面的に称賛していたことが間違いだったのだと誰にとっても明白でしょう。
こうして我々は人格の欠点を知った後でも人物のパフォーマンスをそれと切り離して純粋な目で見ようとするはずです。
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自分が思うには、これをバレエダンサーにも行わなければならないのです。
なぜなら舞踊芸術から享受する感動は当然舞踊から・肉体動作から受け取るべきものであり、”愛着ある人物の踊っている様”から連なってきていてはならないからです。
有名バレエダンサーが来日する時にはダンサーの名前が大々的に宣伝されますが、彼らが目の前に踊っているという事実そのものに興奮するのは、それは決してバレエを本質的に鑑賞しているとは言えないと考えるのです。
そしてバレエダンサーもまた、舞台上の表現者である以上、自分と言う存在は踊りで語らねばなりません。実際に多くのダンサーがそうあるものだと思います。
ですから、我々鑑賞者もまた、ダンサーに見るべきは人物像ではなく、純粋な舞踊そのものであるべきなのではないでしょうか。
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……そろそろリハーサルが始まるようです。
衣装の準備をします。
ではまた。
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